過去へ未来―「なつやすみの美術8 タイムトラベル」での柴川敏之作品

 

奥村 泰彦  和歌山県立近代美術館 教育普及課長

 

毎年、夏はやってくる。和歌山県立近代美術館では、夏期休暇に合わせて「なつやすみの美術館」というシリーズの展覧会を開催している。シリーズとは言うものの、コレクションを中心として美術館で美術作品を見るという体験が生成されるべく企てるという緩やかな目標をもって、毎年異なる内容で構成している展覧会である。8回目となる2018年は、明治から150年であるとか平成が終わるとかいった、時代の区切りを意識させる時期にあたることから、時間を主題としようと考えた。美術館でのタイムトラベルである。

 その導入となり、結びとなったのが、柴川敏之の作品であった。「2000年後」と明確に示された未来の一つの姿を提示する柴川の作品を通して、観客は時間について考えることから作品を読み解くことへと自然に導かれ、様々な作品と時間への思考を経て、展覧会の終盤で再度、柴川の2000年後へと誘われた。

 そもそも近代美術館である当館の収蔵作品は明治時代以後に制作されたものに限られており、例えば歴史博物館であればできるだろう様々な資料を通して特定の時代を知るといった方法に拠ることは難しい。一方ですべてのものは時間の流れの中にあり、あるいは時間の生成とともに存在しており、時間に関わらない作品というものもない。その中で、特に時間を意識させる作品はあるだろうか。そういった作品はどのように時間と関わっているのだろうか。いわば作品に内在する時間を手がかりに、時間について考えることで、作品の体験を深めることができるのではないか。といったことを考え、時間への旅を企てたのが、この展覧会であった。実際、宇宙の始まりから、作品の素材が形成される時間、過去の歴史や作品の制作にかけられる時間など、様々な時間のあり方を作品の中に探すことは企画者としても楽しく、旧知の作品についての新たな視点を得ることもできた。来館者にとっても、作者や時代、様式などを入り口とした、いわゆる美術鑑賞とは異なる思考を通して作品を見るという経験は、むしろ作品への経路をより広く開くものとなったようだ。

 ただ、収蔵作品の中に見出された時間はすべて過去に関わるものであり、未来を示す作品を見つけることができなかった。唯一、未来への視点を提供してくれたのが柴川の作品だったのだが、それは単に未来を提示するにとどまるものではない。柴川が2000年後を考えるきっかけとなったのがポンペイや草戸千軒町をはじめとする過去の遺跡であり、過去を眺めるように未来の視点から現在を考えるという、重層的な時間への関わりが、その作品には表象されている。

 過去の発掘品には現在からは用途がわからない謎な品物も多く含まれており、例えばヤマザキマリの『テルマエ・ロマエ』などは、そういった事実を巧みに利用して物語を生み出している。柴川の作品では、現在の日常生活で普通に使われている品物が、発掘品の見かけをまとうと一見では何かわからないものとなり、さらに2000年後にどのようにとらえられるのかという疑念を自然に抱かせる。

 埋もれた遺跡が示唆する文明の滅亡という負の要素を軽やかに提示して、ではその遺品を発掘するのはどんな人たちだろうか、私達と同じ人類だろうか、あるいは宇宙人かもしれないし発達したAIかもしれないと、空想は広がる。そして、今日私達が楔形文字やヒエログリフや木簡の文字を解読することで過去に思いを馳せるように、2000年後から今日を読み解くことができるのか?そもそも現在の身の回りにあるもので、2000年後に遺るものは何だろうか? プラスチックが風化し加水分解してしまった後、現代を未来に伝えるものはあるのだろうか? といった、現代の生活への問いかけを含んでいる点が、柴川の作品をより複雑で興味深いものとしているのだ。

2018/7/7ー9/2 

なつやすみの美術館8|タイムトラベル|和歌山県立近代美術館(和歌山) 

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