ワークショップの実践〜時空を旅する

 

宮本 亜津子  BBプラザ美術館 学芸員

 

 

ミュージアムエデュケーション研究会「みんなの学美場」は、ミュージアムを活用した教育の可能性について考え、学校の先生方や教育普及に携わる方々が美術館や博物館に親しみ、ひいては子どもたちに美術の喜びや楽しみを伝えていただくことを目的とした研究会です。明石、神戸、阪神間の美術館、博物館等12施設が連携し、それぞれの館が特色のある研修会を企画、実施することで、バトンをつないでいます。

「2000年後からみた現代社会」をテーマに長年制作活動を行い、数多のワークショップを経験されている柴川さんならば、当館ならではの、記憶に残る研修会が開催できるのでは、という思いから、今年度の研修会の講師を依頼させていただきました。 折しも、研修会開催日はコレクションによる展覧会「神戸からの時空 アートの旅人たち」の会期中であり、柴川さんの作品《出現Ⅱ.40041121(2000年後に発掘された絵画の出土品:ルノワール)》(2004)と当館所蔵のルノワール作品《薔薇をつけた少女》(1915)を並べて展示するというユニークな企画も実現し、研修会の合間には、作家と共に作品を鑑賞する時間を設けることができました。

研修会では、ローラー拓本と裏彩色による〈2000年後に現れた紙の化石〉を作るワークショップを行いました。柴川さんの提案で、何をするのかは当日までお知らせしない、というのが今回のコンセプトでしたので、参加された方は、以前から柴川さんの作品を知っておられた方もいれば、「アート入門:ようこそ!2000年後の世界へ」というタイトルだけを見て、何だか面白そうと思い切って参加くださった方もいました。職業も小・中学校の図工専科や特別支援学校の先生、保育士、大学院生、学芸員と様々でしたので、できるだけ立場の違う方と意見を交換していただけるように4班に分かれ、和やかなムードでワークショップのスタートとなりました。

 

最初に、柴川さんがアトリエにある自身の作業台に見立てた机の上で、2000年後の出土品として制作した作品を見せていただきました。ドラえもんやウルトラマンのフィギュア、スマートフォン、ガラケー、玩具のヴァイオリン、縦笛、キューピー人形など、展覧会出品の際は「お手を触れないでください」と表記のうえ、保険を付保して厳重に管理されている作品ですが、今回は作家了承のもと、各自が実際に作品に手で触れてみて、質感、重量を確かめる貴重な機会となりました。  

「2000年後に発掘されたドラえもんは土偶のようでもあり、ウルトラマンに至ってはうやうやしく仏壇に飾られるかもしれない、誰もが大事そうに携帯しているスマホは、何かお守り的な存在として研究が進められるかも?そう考えると博物館に居並ぶ、古い出土品の何割かは、おそらく当時の用途とは違う意味で捉えられ、キャプションをつけられ、展示室に鎮座ましましているかもしれない」と柴川さん。美術ならではの、過去、現在、未来を自在に行き来できる面白さ、楽しさを感じながら、私たちは決して自分が生きている間には見ることのできない、2000年後に思いを馳せることになりました。

 

以前福山の大学に赴任されていた時、草戸千軒遺跡と出合い、本来の用途がわからないほど朽ち果てた当時の日用品から、確かにそこで生活していた人々の息づかいを感じ、それらの造形に感化されたこと。現在の自身の制作については、立体制作と捉えられることが多いが、実はオブジェをキャンバスに見立てて絵具を塗り重ねており、当初取り組んでいた油彩画と同じ絵画的な制作と考えていること。様々なお話を通して、柴川さんの根底には、物事の真理を自身の目で掴み取ろうとする沸々とした探求心と芯の強さがあり、外柔内剛の作家であると感じました。

 

ワークショップの手順としては、机の上に、身近な素材(蚊取り線香やロープ、プラレールの線路など)を自由に置き、その上に和紙を重ねて、好きな部分を選んでゴリゴリとかたちを黒いインクをつけたローラーで写し取ります。

セットした材料が分からない=素材を化石、和紙を土、ローラーをスコップに見立てた発掘体験を行うイメージです。

そのあと、湿らせた拓本の裏側からジュース状に溶かした絵具で裏から彩色していくのですが、ここで柴川さんからアドバイスが。「先生方が直前に絵具を準備するのは大変なので、事前にペットボトルに溶いたものを作り置きしておくと良いですよ。今回は半年前に溶いたものを使います」とのことでした。この間、「どの色が臭くなると思いますか~?」とクイズ形式でも盛り上げる柴川さんでした(正解は青、なのでこの色だけは直前に準備ください。なかなかなドブ臭でしたのでご注意を)。

このほか、新聞をうまく活用して短時間で作品を乾かす方法や、水を使わずに絵具を片付ける裏技も披露され、トイレットペーパーをロールごとつかみ、手首のスナップをきかせて絵具を一気にふき取る実演では、私たちスタッフ含め、ワークショップ後の片付けに苦心することの多い参加者から、歓声が上がりました。

実際に子どもたちに教える立場にある参加者からは、こういった指導する側の視点に立った準備や片付けのコツは知る機会が少なく、とても実践的で嬉しいとの声が多数寄せられました。

裏彩色を終えたあとは、作品の展開例として、ステンドグラスや凧など、さまざまな事例をビデオで紹介したあと、今回は一例としてランプシェードに仕上げました。シェードの中には蝋燭でなく、安価に入手できるLEDライトを入れて安全面にも配慮するなど、何から何まで実践的なワークショップでした。

最後に柴川さんの活動を紹介するパワーポイントとビデオを鑑賞して(可愛い息子さんの写真と自身がモデルとなった相撲映画《ちゃんこ》の紹介も!)、充実のワークショップを終えました。  

 

つけ加えておくと、事前に岡山から送っていただいた材料はコンテナ8梱包(16箱)と、当館がこれまで開催したワークショップの中では最大規模のもので、広げて畳2畳分はあろうボリュームに圧倒されました。かといって無駄のものは何もなく、参加者やスタッフの探検気分を盛り上げるための赤や黄色のバンダナとお揃いのエプロン、BGMに至るまで大変に細やかに考えられており、終了後の荷造りまでもが想定されたものでした。

終始にこやかに、場を和ませながら講師を務めてくださった柴川さんですが、このように、材料ひとつとっても参加者の方のニーズや場の空気に合わせて、様々な想定で入念に準備をしてきてくださったことを随所に感じ、一個人としてもその真摯な姿勢に学ぶことが多くありました。そして何より、柴川さんに秘められたこわいくらいのエネルギーと引き出しの多彩さが作品としてこれからどのような形で展開されていくのか、ものすごく楽しみに感じました。柴川さん、本当にありがとうございました。 たくさんの感謝とともに、これからますますのご活躍を期待し、拙文のくくりとさせていただきます。

2017/12/7 

アート入門:ようこそ! 2000年後の世界へ|BBプラザ美術館(兵庫)

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