「2000年後の倉敷発掘ミュージアム」を終えて

 

中原 誠二  倉敷埋蔵文化財センター 館長 

 

それは静かな幕開けとなった。夏休みは中盤となるものの、埋蔵文化財センターの朝の賑わいはまだ訪れない。 柴川敏之さんはこれまで全国の美術館・博物館で展覧会やプロジェクトをされており、この度の展示企画では、代表的な作品である2000年後に発掘された地球儀、招き猫、キューピーをはじめ、数百点もの作品を、当館の常設展示に合わせて出品していただいた。午前10時、招き猫と地球儀の出土品が静かに揺れる展示室の入り口。親子連れの子どもが母親に尋ねている。「これなに!」母親は即答できない。そこで私(館長)の出番となるのである。

この度の企画は、8月4日に小学校4~6年生を対象とした講座「未来と過去へタイムスリップ☆2000年後の化石をつくろう!」を実施し、講座で制作した子どもたちの作品とともに、指導された柴川さんの作品を当館に展示する趣旨である。まず講座では、柴川さんの指導のもと、子どもたちは未来の化石づくりに挑戦した。あらかじめ用意されたアイテムを見せられると、子どもたちの目が輝く。粘土で型取りをし、まわりに土手を作って特殊な石膏を流し込むのである。この後、固まるまでの時間を利用して、私(館長)が当館展示室にて常設展示の解説をする。子どもたちが本物の遺物を目の当たりにし、これから出来上がる未来の化石をどう繋げ、理解していくのかに興味がそそられる。

さらに、事前に常設の展示物の中に柴川さんの作品を紛らせて配置し、子どもたちが見つけ出すという「プラネットワークシート」を行った。子どもたちが古代の遺物の中から現代の化石を見つけ出そうと懸命になって、どの顔も真剣で生き生きとしていた。これまで当館の展示遺物をここまで熱心に見てくれることはないことと、感心した次第である。柴川さんが常に子どもたちの輪の中にいて注目を集めていた様子は、後々の私の解説時に大変役立つことから、ここではしっかり観察できたのがありがたかった。  

この日、出来上がった未来の化石全29点は制作者の思いが詰まっていて、出来栄えはそれぞれに「ほう」と頷ける納得のいく作品で、後々まで大切にされること請け合いである。 いよいよ8月8日、「2000年後の倉敷☆発掘ミュージアム」の開幕となった。子どもたちの作品は展示室の一角を占め、柴川さんの作品は、展示室はもとより、遺物整理室カウンターなど、来館者の目に触れる全てのスペースに展示していただいた。配置は全てに柴川さんのアイデアが生かされ、常設展示の土器、石器、鉄器などの間に関連性を持たせて配置され、圧巻は入り口すぐのジオラマ。2000年後に発掘された倉敷駅前の再現だった。倉敷駅(駅舎の模型とプラレール群)と大原美術館(建物と額縁)、その間に存在する大きな穴と、穴の周りのおびただしい数の渦巻き群(蚊取り線香)を配置、来館者はまず展示品の数の多さに圧倒され、次にここで何が起きたのかを理解しようと懸命になる。柴川ワールドに引き込まれる瞬間である。 先生は演出にも余念がない。置き方一つで見え方が変わってくる。照明を落とす。「こだわる」ことの重要性を改めて強く認識したのもこの度の収穫となった。

 

書き出しに戻るが、私(館長)にとって大きな変化は、展示解説を任されたことである。2000年後という突拍子もない時代想定と、現代の物を化石化したもの、さらに過去の土器、石器など実物との混在に惑わされるところを解説により納得していただくもの。

解説により来館者との触れ合い、感想を伺い、時々ニーズをお聴きすることができた。中でも来館者の関心が先生の作品に引き寄せられる瞬間を目の当たりにできた。そのことにも今回の展示企画の意義を感じている。何に興味が引き寄せられるのか。その一端を見ることができた。

2000年後から遡ると弥生時代は約4000年前、時間の感覚を2倍にしなければ辻褄が合わない。それにしても過去の遺物と現代の美術品の違いは、ほどなく感じなくなった。いずれもつまるところ人々の暮らしの一部分であって、使う、楽しむ、親しむという人間本来の感性の賜物であり、根源的な部分は同じと理解できる。

 

企画講座「未来と過去へタイムスリップ☆2000年後の化石をつくろう!」で実施した前出の「プラネットワークシート」を使った柴川さんの作品探しクイズは、展示期間中にも来館者に取り組んでいただいた。ことのほか関心が高く、子どもが手にしたが最後、すべてわかるまで親子共々隅々まで熱心に探されていた。数多くの先生の作品と常設展示物に紛れて容易に発見できないことが挑戦者のいら立ちを募らせた。反面、正解した時のすっきり感を増幅させたと思われた。このことは、普段の常設展示を充分見ていただけてないと感じていた私にとって、熱心にガラスケースに見入っている子どもたちの関心を集めるための大ヒントとなった。子どもたちはクイズに関心が高い。或いは飢えている(言い過ぎでしょうか)。今後、当館の学習機能の一環としてクイズが登場するのに時間を待たない。

ところで、埋蔵文化財センターは全国にたくさんあるが、その機能の中で、展示室の役割が今一つと感じている。そもそも発掘したものを展示するのが基本だが、当館のように近年発掘調査は行われず、公共工事など支障がある場合にのみ調査するのであり、展示を一変させるような発見の機会もない。そのため、変わり映えしない常設展示を継続するという、目新しさの無いものとならざるを得ない。市外の類似施設の状況も同じと感じている。このような状況の中にあって、埋蔵文化財センターの役割である、幅広い世代の多くの方々に埋蔵文化財の保護の重要性を訴えるために、この度の柴川さんの作品展は、未来の化石を通して古代の遺物への関心を引き寄せる大きな吸引力になった。  

 

最後に、「2000年後の倉敷☆発掘ミュージアム(倉敷埋蔵文化財センターと美術家・柴川敏之のコラボレーション)」を当館で開催したことにより、来館者の増加は言うに及ばず、来館者との新たな出会いや触れ合いによる当館の印象や期待するものの把握、さらに今後に向けて当館の存在意義、ありかたを再認識するまたとない良い機会となった。

季節は移りつつあるが、展示室に足を踏み入れると、かつての子どもたちの歓声と展示ガラスに残された手のあと、指のあとの記憶が、褪せることなく脳裏によみがえってくる。

 

 

2017/8/8ー8/27 

2000年後の倉敷☆発掘ミュージアム|倉敷埋蔵文化財センター(岡山) 

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